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「和解か判決か」の続き

税理士責務の過酷さ

もう少し具体的な話に進めます。依頼者側がそもそも正確な情報を隠して開示しないために申告漏れが生じたという事案は特段珍しくありません。相続税では、納税者が意図的に隠していたのなら、重加算税が課税される仮装・隠ぺいになります。追徴税だけでなく、各種の有利な特例の適用が受けられないことになりますから税負担が格段に増えます。この場合、正確な遺産情報を提供しないで、被相続人の名義以外の財産について、遺産と知りながら税理士に開示しなかったとすれば、それは隠ぺいであって、納税者の方が悪いはずです。それが発覚した場合の結果については納税者が負うべきです。しかし、「税理士が教えてくれなかった」「訊いてくれなかったから開示しなかった」として損害賠償請求をされると、安閑としていられないのです。税理士は、依頼者の利益のためにだけ申告業務を行うのではなく、適法、適正な申告書を作成する義務があるとされています。私見ですが、これが税理士の注意義務を極限にまで高めているように思います。だから不安になるのです。納税者である依頼者が、遺産の認識を持っていたのなら、それを申告財産として税理士に開示するのは常識です。税法の無知など理由になりません。それでも、「ひとこと言ってもらったら全部お見せしたはずです」などと殊勝に陳述されると、「税理士がもう少し念を押して確認すれば、納税者は開示していた可能性は否定できない」という認定をされないかと怖れてしまうのです。「こうしていれば、こうなった可能性がある」というのは結果論であって、可能性があっただけで過失が認定されるなんて堪ったものではないのですが、現実なのです。

 

和解か判決か

まだ、記憶が生々しい税倍事件のことです。よくある相続税の申告漏れ事案ですが、受任税理士が申告してから10年以上を経過してから和解で決着がつきました。それだけでもかなり特殊ですが、別段、その損害賠償請求事件について長い裁判をしていたわけではないのです。申告漏れというより申告除外になるのですが、金融資産だけでも数億円の相続財産がありながら、依頼者が自分名義にしておいた分を全部隠して税理士に相続財産情報を提供したのが事案の核心です。調査が入って、依頼者の仮装・隠ぺいが認定されました。依頼者が相続財産であることを認識していたことも、税理士に言わなかったことも、税理士が家族名義財産も相続財産になり得る説明をしていることも、依頼者に税知識があることも認定されました。それは異議決定、審査請求の採決の認定でも詳細に認定されました。更に、処分取消請求訴訟でもその認定は維持されました。

そこで、一転して、依頼者が申告税理士に対して、債務不履行による損害賠償請求を提訴したのがこの事件です。事実関係は原告(依頼者)の仮装・隠ぺいを認定するに足りる十分な証拠があります。それでも、原告は被告(税理士)が自分名義の財産について訊いてくれなかった、それが相続財産になることを教えてくれなかったと主張します。この点に限れば、目に見える証拠はないものの、原告が被告の税理士を利用して仮装・隠ぺいの申告をしたというが私の見立てでした。

裁判の審理が終わって、損害賠償請求事件の常として裁判所から和解の打診がありましたが、私は、内心では、これほどまで有利な材料がそろった事案は滅多にないので、判決を得てみたいという思いが強くありました。同じ税理士として、また弁護士としても完全勝訴の先例を残したいという思いもありました。しかし、被告本人から「勝てますか?」と聞かれと「大丈夫」とは答えられないのです。「完全勝訴もあり得るし、自分としては当然とも思っている」とはいうものの、「(裁判所は)いくらかの過失は認めるかも…。実質的な勝訴には違いないけれど…」とトーンは落ちます。頭をよぎるのはナナサンの過失割合です。まさかこの件でそれはないと思うものの、裁判官の頭にある「わずかの過失は3割」という疑念が憑き物のように頭から離れません。そうでなくても、依頼者にとっては、1割か2割でも、その金額を考えると大変な負担です。気分的には負けに等しいかもしれません。

とは言え、和解の席についた以上はゼロ回答というわけにもいきません。結局、被告が原告から得た報酬に少し加算した額を提示することにしました。被告もそれくらいで済むなら問題ないということでした。控訴審のことを考えると費用的にも損が生じるほどではないのですから、これで和解できるのなら事実上の勝訴と言ってもよいくらいです。しかし、私は、内心では原告に一蹴されると思っていました。実際、訴訟前の調停でも同じ提示をしたことがあるのですが、そのときは「桁が違う」と一蹴された経緯があるのです。それならそれでよいと私は思っていました。判決以外の選択肢がなくなるので腹をくくれるからです。それを期待する気持ちさえありました。 

 

負担を最小限に(得することなどあり得ない)

意外にも原告は、当方の提示をほとんど受入れました。ただ、あとほんの少し上積みした金額で承諾するということでした。おそらく、原告は完全敗訴まで予想したのだと思います。ですから、自らの提示額にも執着していなかったと思います。請求額や支払った税額に比べれば取るに足らない金額です。その程度なら、もし負けたとしても、たいして変わらないという思いだったでしょう。当方がそれを蹴れば、ほんのわずかのことで和解が決裂して判決になったかもしれません。原告の対応が私を強気にさせて、判決をもらおうかと思いましたが、依頼者が原告案を承諾したので和解となりました。100%の完全勝訴の保証がないのですから当然のことかと思います。私が拒否するわけにはいきません(こんな場合に「先生にお任せします」と言われるのが一番つらいです)。この事件は、長い長い経緯があって、依頼者はともかく縁切りがしたかったという事情もあります。

いつの和解でも多少の悔いは残るものですが、審理を経るにしたがって勝てるとの思いが徐々に強くなってくる事案では、事実上の勝訴とはいえ、忸怩たるものがあります。ただ、ほんのわずかの過失とはいえ1割を切ることはありません。1割でもそこそこの金額です。そして、ほんのわずかの過失は探せば見つかります。それを思うと、和解に傾きます。

 

総括(だれが得をするのか)

 言い掛かりのような事件ではあっても、専門家にはつけ込まれる隙が常にあると思っておいたほうがよさそうです。ほとんどは信頼関係の上で仕事をしていて、それで問題など生じないのすが、それが裏切られることもあります。信頼は時として脇が甘くなってつけ込まれると高くつきます。長いこと責められて、憂鬱な裁判を強いられて、タダ働きの上に弁護士費用の出捐までしなければならないのですから、最小限に抑えた損失とはいえど、晴れ晴れとはいかないものです。もっとも、こんな和解では、相手(原告)も決して利得をしているわけではないはずです。かなりの持ち出しになると想像できます。弁護士だけが得をしているかのように思われるかもしれませんが、言い掛かりを退けたとしても、報酬基準の経済的利益を形式的な差額で計算できるはずもなく、仕事量の割には報われないことが多いのも確かです。まして、負け筋の事件を見破れなくて受任したりすれば、後悔必至です。

 

 ところで、和解に関して「和解金は経費になりますか?」とか「弁護士費用は必要経費になりますか?」という問い合わせを受けることがよくあります。クライアントにとって和解金や弁護士報酬が経費処理できるか否かは重大関心事です。和解金を取得する側は所得申告をしなければならないか否かも問題になります。いずれも事案と当事者の立場(非事業者、事業者、法人など)によって異なります。大概は簡単に判断できるのですが、自分が処理した事案でなければ見落とすというより、認識がないまま間違った結論を言ってしまう恐れがあります。それで弁護士過誤なんて言われて賠償請求されたら堪りません。まさか、そんなことはないですが、必ず留保付きで答えるようにはしています。聞いてこられた先生にすれば歯切れが悪い(つまり頼りない)と思われるかもしれません。

 損賠事件というのは、営利行為ではないのに、損することばかり多くて、その上に課税さえ心配しなければならないとは、つくづく割に合わないと思います。

 

 弁護士費用と必要経費・損金

 ■拙著 「和解の法理と税務Ⅴ1.7」 税法講義/和解と弁護士費用→弁護士費用は原則として事業所得の必要経費算入可 

 支払和解金

 ■同  「和解の課税診断Ⅱ」チャート判定→債務の確認と履行和解/具体的確定債務/損害賠償謹支払目的/債務不履行原因/損害賠償金/個人/業務関連行為/故意又は重過失なし/必要経費算入可 

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